キリンビール医薬カンパニー
浅野社長インタビュー議事録

キリンビール(株)医薬カンパニー

Q1.1日のスケジュールを教えてください。

A1.朝は9時に出社して、まずメールチェックをします。
その後で、病院等のお客様に会いに行ったり、医薬品業界の様々な集まり等に出席します。
また、ときには海外出張もします。朝9時に来て、19時に帰れればよいのですが、
今はなかなか難しいですね。

Q2.学生時代はどのような研究されてましたか。

A2.学部時代は農学部に所属し、食品化学を専攻していました。
高野(凍り)豆腐を水にいれたときになぜ膨らむかという、タンパク質の変性についての研究をしていました。
一方、修士課程では、そばの研究をしていました。
そばの中にある、でん粉以外の特殊な糖についての研究をしていました。

Q3.修士課程の時に、博士課程に進むことは考えましたか。

A3.当時は、食糧事情が社会問題になっていて、それが私の最大の関心事でした。
将来の食糧危機に対して役立ちたいと思い農学部に入り、
研究というより、実用性を重視していたため、全く考えていませんでした。

Q4.デンマーク留学の経緯。

A4.会社で楽しく研究していましたが、ビールだけの研究だと世界が狭くなってしまう。
ビールの中のたんぱく質の性質を研究したいと思い、会社の留学制度で、
ビール会社が作った研究所であるカールスバーク研究所に留学しました。

Q5.社内留学制度について。

A5.あります。社内募集のMBA留学があります。
技術職は論文を提出し、テスト、面接を経て、一定基準を満たせば留学、という事になります。
昔は、MITに出資していたため、MITに留学していた社員はたくさんいますね。
技術職でもチャンスはいっぱいあります。

Q6.技術職としてキャリアを積む秘訣。

A6.本社に言われるがままやってきましたが、それぞれ与えられた仕事をひとつひとつこなしていくのも、
本当にやりがいがあって楽しかったですね。そのときそのときにベストを尽くすのが一番の秘訣ですね。
でも、自由にやらせてくれた研究が一番楽しいですね。

Q7.御社における新卒入社において、修士卒と博士卒の待遇の違いはありますか。

A7.特に違いはありません。最初から、博士を何人採用する等は決めておりません。何をしたいかを重視しています。

Q8.ビールの発酵のバイオ技術を薬に応用する事は可能でしょうか。

A8.ビールの技術を直接薬に応用するという発想ではなかったです。
発酵は微生物等の生き物から応用するので、新しいバイオ技術に手をつけるのは親近感があって、
製造業からバイオへ等というよりも参入障壁が低いと思っています。

Q9.御社の強みは。

A9.モチベーションの高い社員が多いことが一番です。
技術的な強みは、遺伝子、細胞等を扱って薬にするという分野でバイオテクノロジーを用いた会社の中でもトップクラスだと思っています。

Q10.社員の方々は、薬学部出身の方が多いのですか。

A10.薬学部もいますし、私のように農学部出身者もいますし、あるいは、理学部、工学部と多岐にわたっています。
MRに関しては、ここのところ文型部出身者の方もたくさん増えていますよ。

Q11.大学との共同研究をされていますか。

A11.もちろんしています。弊社において一番力を入れている完全ヒト抗体の技術を作り上げるために、鳥取大学の医学部の先生の力をお借りして、共同研究しています。
社員を派遣して、新薬開発のベースとなるヒントを頂いたりしています。海外の大学とも共同研究しています。

Q12.海外展開はこれからも推し進めていく予定ですか。

A12.今までは、日本とアジアだけでしたが、これからは、アメリカ等にも進出していく予定です。
薬というのは世界共通で患者さんがまっており、一刻も早く我々の薬を届けなければと思っています。
今までは米のアムジェンという会社との共同研究でアメリカのマーケットに進出できなかったのですが、
今後はアメリカ、欧米に拡大していく予定です。日本のマーケットでは高齢者が増えていくが、
医療費など薬に対する抑制力がかかることが予想され、アジアや欧米に手をかけないとこれから大きな成長は期待できないと考えています。

Q13.近年、医薬品業界においても合併・買収等が盛んに行われていますが、この現実に関してどう思われますか。

A13.薬を開発する上で資金力が重要になるのは間違いないですね。
みなさんがそうなるのもある意味当然で、良い悪いという事ではなく会社が成長していく上で必要な事だと思います。
ただキリンの医薬というのはそういう道を歩まないと決めており、会社の規模の大きさで勝負するのではなく、
得意なところに集中して世界1位を目指したいと考えています。
医薬に関していえば、病気の4分の3が治らないといわれており、足りない薬はいっぱいありニーズはたくさんあります。
大きな会社は大きなマーケット、リターンの大きいところを狙おうとしていて、小さいマーケット、リターンが少ないところはあまりやらない。
だがそこには満たされないニーズが色々残り、誰かが薬を開発しないと患者さんは救われないわけであり、
規模は小さいけど本当に必要とされるニーズにマッチした薬を開発できれば、まだまだチャンスはあると思っています。
合併等で大きな会社が大きくなればなるほど埋められない部分が大きくなり、我々のビジネスチャンスはより増える、
個人的にはどんどん合併をやれやれ、と考えています(笑)。
ただ、ファイザーが大きくなりすぎて困っているという事を見ても、会社が際限なく大きくなる、ということはないでしょう。

Q14.今後の事業領域についてどのようにお考えでしょうか。

A14.腎臓病、がん、免疫の病気、感染症等に事業を絞って開発に力を入れたいと考えています。
細胞医薬品、細胞そのものを薬にしてしまおうという事にもチャレンジしようと考えています。

Q15.若い社員に新規事業等の仕事を積極的に任せる風土でしょうか。

A15.ある一定の条件や資源(成果の条件や投入する資源)を提示して、チャレンジしたい人にしてもらうことを考えています。
外部の技術に投資することももちろんあります。

Q16.ひとつの研究開発をするにあたり、どのくらいの期間がかかるのでしょうか。

A16.世の中では最低10年といわれています。
早いので、8年で開発できたものもありますが、平均的にはだいたい10~15年と業界では言われていますね。

Q17.がんの薬は、がんの種類によって異なりますか。

A17.以前は、同じもので対応してきましたが、最近では、特異性があるものに注目しています。
患者さんひとりひとりにあったオーダーメイド治療に力を入れたいけれども、
コストや手間かかってしまうという問題がありますし、また、他の人に同じ作用が効く場合もあるので、
この件に関しては、検討しながら進めていきたいと考えています。

Q18.事業を行う上で困っていることはありますか。

A18.困っていることはたくさんありますよ(笑)。
日本で開発をしようとすると、費用と時間が世界的にみると余分にかかっていることですね。
政府のほうでも検討しています。

Q19.浅野社長の夢を教えてください。

A19.仕事の面でいえば、規模は小さくても、世界中で“この分野ではキリンだよね!”といわれるようになりたいということですね。
仕事以外の面では、泳ぐことが好きなので、世界の海を泳ぎ回るということですね。
まだ世界で、カリブ海と南大西洋の2つだけ泳いだことがないので、ゆっくり泳ぎまわりたいですね。
本当は現役のときにやりたいと考えているのですけど、なかなか難しいですね(笑)。

Q20.学生に向けてのメッセージをお願いします。

A20.学生のうちに広く世界を見ておくことが一番大事だと思いますね。
世界でどのようなことが起きているかというのを、見ておくことで、
将来自分がやるべきことが見えてくると思いますよ。