2006年4月27日

テレビの現状とテレビを楽しむということについて



・テレビとテレビ局は違うものである。
「テレビ」は文化、ビジネスなどの集合体であり、現象、ムーブメントである。「テレビ局」はテレビを動かすものを集めた会社である。業界に入るのはとても簡単なことであるが、局に入るのは、ただの就職と同様で厳しい面が人数の制約上あるのはしょうがない。 金田氏が入社したときは志望者13000人から60人が就職し、今は50人ほどが残っている。日本テレビ制作担当の社員400人ではとても制作は無理なので、外部の制作会社に依頼するのであるが、その数は3000人くらいだろうか。
小学校、中学校、高校、大学と進むにつれて周囲にいる人種が狭まっていくものである。また普通に就職すると、同じような人間が入社していくものだ。しかしテレビ業界に学歴はほぼ関係ない。中卒だろうが東大卒だろうが関係ないのだ。がんばった分だけ見返りがあり、だからこそ面白いといえる。

・テレビを作るキーワードは2つ。
1つ目は、「プロデュース、プロデューサーの存在」
2つ目は、「出演者、タレントの存在」
金田氏の場合は、1つ目に関しては企画からマネジメントまですべてやるそうである。2つ目に関しては、「タレント」を「よい発想を体現してくれるよきパートナーである」と定義するので、いくらコンセプトを説明してもピンと来ない人とは絶対に組まない。ドラマは何度でも取れるから最悪それでも構わないが、バラエティは生ものなのでそれが利かない。

・プロデューサーには二通りのタイプがある。
「100%を目指す人」と「120%を目指す人」前者は、型が自分の中で出来上がっているのでそれを出すだけでいい。後者は、思っている以外の部分、例えばその場のノリとかを出したりするが、悪いときは60%になったりもする。のびのびとやる分リスクも大きいタイプである。どちらもそれぞれのスタンスなので、どちらがいいかは一概には言えない。プロデューサーはビジョンを立て、タレントはビジョンを体現するのだ。

・なぜ、その二つがキーワードなのか。
それは、テレビとは人間がすべてのものであるからに他ならない。一般企業、メーカーには機械が勝手に作ってくれる時間があり、寝ていてもいい時間があるし、黙っていても機械が作ってくれる。しかしテレビはそれができない。機械は道具であり、自分で考えて製品を作ってはくれない。人が動かないと物ができず、人の動き方しだいで物の出来が変わるのである。だから、テレビは人がすべてであり、人間力が出来を左右する。

・タレントの年齢は関係ない。
人間力(売れるようなエンターテイメントを作る力)のある人に頭を下げるのは当然である。なによりも、大事な「商材」であるために。そして使わないときは使わないという厳しい側面がある。視聴率などの結果だけでなく、その人の持つオーラなども要因のひとつ敬意の対象になりうる。
放送作家と芸能人はその人がそうだといった瞬間からなることができる。しかし、才能がないけどやっている人も多いのが実状である。そういう人は人間力つまりエンターテイメントを作る力がないのだ。だから、大事にされない。才能があるという評価をもらうことが大事である。才能と思えないようなことも才能であることもある。例えば、堂々とできることが挙げられる。 
番組も、「面白い」と思ってみていると面白いのだが、マイナスイメージがあるとどうしてもアラ探しをしてしまうものだ。テレビ東京みたいに金をあまりかけないで、工夫して番組を作っていても、イメージしだいで、工夫している面が目立ったり、金をかけていないところが目についたりする。日本テレビはこのイメージ戦略という面からフジテレビに遅れをとった。10年間、日本テレビは実は取ったが、名を取れなかったのはこのためだ。
「コンテンツ」というただのモノを扱うスタンスでは人を動かすようなものは作れないのではないか。ビジネスマンとしてではなく、クリエーターとしてのスタンスがプロデューサーには求められる。ネットテレビ、ワンセグなどのメディアは多様化したが、面白いソフトは生まれてきているか? 生まれてきていない。
新しいステージは増えた。しかし、面白いものを作れる人は限られているため、当然面白いものは増えない。放っておいて面白いもの、すばらしいものはできないのだ。人間力がまさに必要とされている。変化しても、才能があって、変化をわかっていれば、負けることはないのである。自分にどんな才能があるか?どんなアレンジをすれば成功させることができるか?それをつかむべし。

・20代は。
今の20代は頭がいいし、現実主義で会社に従順である。金田氏の持論は、「会社は道具である」というもの。道具を大事にしておかないといい物はできないから、大事にしておく、という程度でいい。それ以上に会社に隷属しては駄目だ。金田氏の世代は、ポジティブで、世の中もっといいことがあるのではないか?と考える人が多い。それも重要な要素ではある。

参加者からの質問
Q、それぞれの局で社風のようなものはあるのか
A、会社はコミュニティだから似た感じの人が集まるものだ。だから、なんとなくイメージ的なものはできてくる。個人的なイメージだが、
日テレ…秀才タイプ。悪くなると何もできなくなりがち。合議的
CX…会社がたくさん社内にある。その中で班に分かれていて、社内ライバル心が高い
TBS…官僚に近い。お役所的で新しい物事が決まりづらい
朝日…今勢いがあり、物事が決まるスピードが速い。今一番面白いかもしれない
NHK…人事異動が多い。カタい。人が多く、分業制。大河、朝ドラ、紅白の切り札を持つ

Q、芸能人とはどのように付き合っているか
A、仕事はやるが、パターン的な付き合い。いつか切らなければいけないときが来るかもしれないので、情をあまり移したくない。そのため、プライベートではあまり付き合ってはいない。もちろん個人差がある。

Q、社員になるためにやっておくべきことは
A、局に入る=会社に入る 制作が必ずできるとは限らない。制作をやりたい!という場合は制作会社に入るほうが確実である。
新卒にはあまり期待していない。実績も、スキル面も。会社に入って教育できるから。それよりかはなるべくいろいろなことをした方がいい。一般の人にソフトを提供するので、一般よりの目線を持っていたほうがいいためだ。面接では、主に求心力を見ている。受験者は見栄っ張りが多い?ため、事前の学習は面接官によっては裏目に出ることもある。よって、懸命に生きることが重要となる。普通の人では作れないが、普通のセンスがないと作れないのがテレビだ。生まれ持った才能+センス、いろいろ感じて鋭い感性を身につけるべし。

Q、人間力とは先天的なものか、それとも後天的に身につけることができるものか
A、才能は必要であるが、それは最初の部分だけであり、才能を育てないと生き残れない。自分なりのスタイル・スタンスで自分のやりたいことに関わるべき。テクニックは勉強でできるものだし、仕事は分業制で、一元的なものではない。だから、スタンスがどこにあるか、どこに才能があるかを知ることが重要である。



文責 千葉大学 田中延志氏






■講師:金田 有浩氏
■講師紹介:国際基督教大学卒業後、1991年4月に日テレ入社。当時は営業局、ネットワーク局を経て、1995年に制作局へ異動。過去の担当番組として、「ロンブー龍」、「マネーの虎」、「24時間テレビ」、「1億人の大質問!?笑ってコラえて! 」、「とんねるずの生でダラダラいかせて!!」、「知ってるつもり?!」などがある。現在は、「音楽戦士 MUSIC FIGHTER」、「歌スタ!! 」、「ロンQ!ハイランド」を担当している。