第六回 大切なのはスタイル |
いよいよ最終回です。8月、9月ともなれば来年度の4年生を見込んだ就職活動セミナーなどぼちぼち始まってくる時期ではないでしょうか。インターンシップに励んでいる学生さんもあるかもしれません。 さて、今回は就活をする上でも仕事をする上でも大切なことについて話したいと思います。 人が生きていく過程というのは、といきなり大上段に構えてしまいましたが、それは結局のところ自らのスタイルをトライアルアンドエラーで確立していくことなのではないか、ということをぼくは大学生の頃から考え続けています。この「スタイル」という言葉はもしかしたら人口に膾炙されすぎて陳腐な印象を与えるかもしれません。 けれどもいまや飛ぶ鳥を落とす勢いでビジネス書を出し続けている教育学者齋藤孝は『声に出して読みたい日本語』で注目されるよりもはるか以前の1995 年、明治大学の紀要に「スタイル間コミュニケーション」という論文を発表しています。その全貌はのちに『生き方のスタイルを磨く』(NHKブックス, 2004)にまとめられます。彼のすべての著書にはこの「スタイル」という概念が通底しています。 スタイルとは生きていく上でのその人自身の方法論、型、あなたらしさ、あるいは何を美しいと感じ何を正しいと判断するかの根本。 就職活動をすること、仕事をすること、それが人生の一部分であるのならば当然スタイルの何たるかもそこに適応されます。 あなたがどのように面接官に対峙するのか、どの業界を、どの会社を選ぶのか。すべての瞬間にあなたのスタイルが現れています。あるいは迷ったとき、あなたが今までの人生を振り返って「らしい」と思う方向へ進むのもあるいは逆に「らしさ」を塗り替えたいと思ってあえて反対方向へ進む決意をするのもあなたのスタイルの現れなのです。 会社においてもそうです。仕事というのはマニュアル化される部分もぼくのような事務系の人間にとっては多いのですが、それでもなおパソコンの画面上で全てすませられる人もいればぼくのようにいちいち紙に印刷して赤ペンでどっさり書き込みをしてからでないと気が済まない人もいる。その全てスタイルの違い。あるいは他部署との関係というのは結局のところ個人と個人とのつながりに収斂されるわけで、どのような言葉を使って仕事を進めるのかというのは正解こそないもののやはりその人の人となりが現れる。 同じ仕事を頼むのであっても「この日までに出していただけますか」とビジネスライクに行くのか、「いやいやおっしゃることはわかりますがこっちも締め切りがあるんですからそちらでしっかりやっていただかないと、こっちも困るわけですよ。何が困るってこの日までに上司が要るって言ってるわけですからこれはやはり会社として(以下略)」とねちねち攻めるのか、「いやあこの日で大丈夫ですかねえ、申し訳ないんですけど、すいませんがよろしくおねがいします」と下手〈したて〉に出るのか(下手に出たくてやっているわけじゃない、そうとしかできないのです、というのはぼくの場合)。 どれが良くてどれが悪いというものではありません。昨日は強権的だった人が今日からへりくだって仕事をするなんてことも無理です。そういう選択の不可性も含めてスタイル。大事なのは一貫していること。 齋藤孝はスタイルとスタイルとの間にこそコミュニケーションは成立する、そしてその”スタイル間コミュニケーション”こそが互いのスタイルを高め合っていくクリエイティブな人間関係なのだと説いています。 就職活動というのも会社における仕事というのも結局のところは人間と人間とが関係することに依っています。そこはまさにスタイルを実践し洗練させていくには絶好のプレイグラウンドなのです。その事実にもっとぼくたちは救われるべきなのです。 さて、半年間という短いようで長い間でしたがこの回で全六回の連載を終わりたいと思います。毎回、就活や仕事についてその時々に考えていることを書くというなんともいい加減なコンセプトで続けてきたこの連載も、一人の文学部出のサラリーマンが時にはペダンチックに就職活動・会社生活を描いてみせるという典型としてはなかなか充実したものとなったのではないでしょうか。ともあれ、ここまでおつきあいくださった見えない読者の皆様に感謝申し上げるとともに毎回原稿をアップロードしてくださった代表の齊藤さんにも謝意を示し、擱筆とさせていただきます。 ありがとうございました。 |
荘司 和良
1982年生まれ。東京都出身。
2005年、東京大学文学部卒業。
現在会社員。
「就職活動は人生の縮図。人と人とが出会い、別れる。それが濃密な速度で繰り返される。そんな日々はめったにあるものではないように思います。だからそう、あなたがもしも自分の人生に飽き足り無さを感じているのだったら、就職活動はものすごいチャンスのはず」