2006年12月9日
起業サイト構築の観点から見たWEBサイト
現在国や自治体サイトの作成手順は、自治体側の伝えたい情報を選び、自治体側の切り口でのメニュー分けをし、自治体が良いと思うコンテンツを作成し、提供している。本来は国や自治体のサイトも顧客志向を重要視し、次の4つの点に着眼しなければならない。
①伝えたい情報は利用者が決める
②利用者が覗いてみたいと欲するサイトのシナリオを考える
③利用者のニーズにあわせたコンテンツ設計
④利用者の目線でのサイト構築
以上4点について、ケーススタディーを用いて説明する。
1.日本政府のサイトと海外政府のサイトの比較
地方自治体のサイト比較する前に、日本政府のサイトと海外政府のサイトを比較したい。アメリカのホワイトハウスのHPは、ファーストレディーが何をしているかといったことまで、
具体的な内容が載っている。また、写真がよく掲載され、読みやすく構成されている。経済発展の目まぐるしい中国政府のサイトを見ると、海外へのPR効果を意識して、多様なコンテンツで作成されている。但し、色使いが派手すぎて見た目が今一歩という弱点があるようだ。
一方、日本の行政サイトは文字が中心で、WEB2.0どころかWEB1.0レベルの提供ですら、まともにできていない。せいぜいPDFが付いている位で、写真もほとんど使われていない。政府のサイトについても海外発信の工夫が英語訳のみとなっており、PRにつながっていない。
2.行政サイトの実態
今回主婦、シニアによる調査をしたところ、以下の結果(問題点)が浮かびあがった。
・検索ページがどこにあるか見つけるのが難しい。
・行政サイトに欲しい情報が全て載っているわけではなく、一生懸命探した結果、問い合わせが必要な場合がある。しかも、どこに問い合わせをすべきか、分かりづらく、時間をロスしてしまう。
・HPでは、仕事をしている方々の顔が見えず、担当者が分からない。
・ある地方行政サイトでは、フリーダイヤルが載っているにも関わらず、年間10件しか問い合わせが無いことがあった。今では、その電話番号は消されてしまっている。
以上、行政サイトは市民が求める情報がサイトの中に埋没しており、質問自体を断念してしまっているケースまである。この為に結果としてサイト訪問者数も伸びず、行政サイトでバナー広告を載せたが、応募が無く困っているといった声まで聞こえている。
3.その他(参加者とのディスカッション)
①インタビューをした方とWEBの使用方法
シニアの方の中には、自治体主催のパソコン教室に通い、毎日授業を受けている人もいる。当然彼等は、受講後に自治体のHPを訪れる。つまり、自治体はシニアがインターネットを利用するのを想定しなければならないのだが、ほとんどの自治体のHPは、シニア層を対象としてきちんとサイト構築をしていない。
②IT推進室について
サイトを自作にするか、外部に任せてしまうかについて、議論の余地はある。サイトの構築を外部に任せた場合にも、サーバー管理としてのIT推進室は必要となる。しかし、より重要なことは、利用者からの問い合わせ(ニーズ)と担当部署をつなげる役割を担うセクションが必要だということであり、それがIT推進室であってもよい。
③掲示板
掲示板サイトでは、荒らしが発生を防ぐことが課題。ブログでも同様のことが言える。
④SNS
SNSが話題となっているが、SNSは地域コミュニティーなどで活発に利用され始めている。一方で自治体サイトは、WEB2.0を進める前にWEB1.0さえ満足に出来ていないことを自覚し、再構築させていく必要がある。
⑤サイトに対する予算
森内閣時代、E-Japan構想が打ち出され、ITとつくと、予算が非常につきやすかった。当時は、ITとコストダウンを結びつける意識もなかった。しかし、今や地方財政は疲弊し、コストダウンが至上命題となっている。‘ITをコストダウンのツールとしてどう活かせるか’今後はこの意識も必要となる。
⑥メール回答調査
メール回答調査の結果、24時間以内の返答が46%であった。しかし、その一方で30%近くの‘返答が来ない’ケースもあった。一部のサイトにいたっては、問い合わせ先すら示されていなかった。
4.改善提案
・政府関係のサイトは、利用者ニーズを特定し、利用者の使い勝手が良いように、見せ方を変えるべきだ。
・サイトのTOPページに問い合わせ先が示されていないのは、利用者の視点に立っていないことにある。そこには、面倒なことを減らしたいという行政の思惑が透けて見える。
・サイト構築において、コストダウンだけが重要なのではなく、市民にとっての利用価値を高めていく努力が必要である。現状では、ただ作ったというサイトも多い。
・表形式はシンプルで分かりやすい。わざわざお洒落に作らなくても、表で示すだけで訪問者の理解度は高まる。
・WEBサイトの検索を文字だけではなく、ロゴやアイコンを加えると利用しやすい。
・多くの市民に受け入れられるユニバーサルメニューを考え、自治体のHPを請け負う民間企業に販売するというビジネスモデルを検討している。
■所見(経営研究会 会長 斉藤 丈真)
自治体・病院゙等のWEBサイトに対する市民の声を拾い上げ、変えていこうとする安井さんの取り組みは、面白い観点であり、非常に共感する部分がある。WEBサイトはただのサイトではなく、世の中の仕組みも変えてしまう力を持っていることを認識した。また、安井さんの動画を使ったプレゼンは非常に面白かった。
文責:経営研究会 会長 斉藤 丈真
●報告者:安井秀行氏
<安井氏プロフィール>
慶応義塾大学大学院計算機科学専攻修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパンに入社。主に消費財関連の商品開発戦略、営業戦略等のコンサルティングに従事。その後、米国ノースウエスタン大学にて、「コンピューターを使った教育」に関する計算機科学・心理学・教育学の観点からの学際的な研究領域であるInstitute of the Learning Science修士課程(MS)修了。シニア向けコンピューター開発事業SilC立ち上げ、DB・WEBマーケティング ベンチャーの株式会社DBMG取締役を経て、現在に至る。